コペンハーゲン中央駅から徒歩分ほどの場所に、通称ポリテーゴエン(Politigaarden)と呼ばれる警視庁があります。 4階建ての地味な外観の警視庁はちょっと大通りから引っ込んで建っていることや、回りに高い建物があるのであまり目立った建物ではありません。 建物は外壁に灰色の大理石を使い、細部まで丁寧な仕上がりですが、ちょっと人を寄せ付けないような雰囲気があります。 正面玄関に、昔の夜警が持って歩いたというなごりで警察を象徴する星の形をした金色の飾りが付いているものの、警察官など立っていませんから、いったい何の建物なのか見落としてしまいそうです。
警視庁はネオクラッシック様式のとても有名な建物で、特に吹き抜けになっている部屋や中庭の回廊は一見の価値があります。
この建物は建築家 ハック・カンプマン(Hack Kampmann 1856−1920)と息子ハンス・ヨーゲン・カンプマン(Hans Jorgen Kampmann)、 ホルガー・ヤコブセン(Holger Jacobsen)、オーエ・ラフン(Aage Rafn)によって1918-24年の間に作られました。 カンプマンは主任建築監督を務めましたが、 工事中に死亡したため、息子と前述のヤコブセン、ラフンの三人の建築家があとを継ぎ完成させました。
カンプマンは王立建築アカデミーの教授で、招聘されて教授になる前にユトランドで活躍し、 オーフスにあるオーフス劇場(1900)やマーセリスボー王宮(1902)などを設計しています。 カンプマンはコペンハーゲンに移ってから、警視庁の後ろにある新カールスベア美術館の別館(1901-06)やカールスベアビールの創始者の館(1892-93)などを設計しました。
正面玄関から入り、最初に案内されたのは44本の円柱が立つ壮観な回廊です。 庭の直径は約44mあります。円柱が並ぶ回廊を見ると、やはりミケランジェロが設計したバチカンのサント・ピエトロ大聖堂広場の回廊を思い出します。 カンプマンは建物と太陽の角度を考えて、建物の2階、3階に日陰が半円形になるように設計しています。 ちょうど見学した日は、午後4時すぎでしたので、午後の日が建物に美しい半円を描いているのを見ることができました。
円柱が並ぶ回廊はどこを撮っても絵になるので、よく刑事ものを題材にした映画やテレビのロケ場に使われます。 テレビニュースで放映される警視庁長官や刑事のインタビューは必ずこの中庭で行われます。 時々ファッション雑誌でも中庭で撮影した写真を見ます。 警察庁を真上から見ると、やや台形に近い形をしていて、円形の庭がかなり大きく建物の部分を占めています。
中庭から殉職した警察官を偲ぶ部屋に入ると、天井が四角く吹き抜けになっていて、ローマのパンテオンのようです。 中庭と同様に神殿のような太い八本の柱が非常に印象的です。 建物の壁には殉職した警察官の名前が刻まれ、アイナー・ウッオン・フランク(Einar UtzonFrank)が制作したギリシャ風の男性が足元の大蛇を踏みつけるブロンズ像が立っています。 部屋は外の空気が直接入るのでひんやりしていて、床を歩く靴の音や話し声が壁に響きます。 天井から自然光が円柱を照らし、その光と影のコントラストが劇的です。
約700人の職員が働く部屋や壁の色は、灰色に緑が混じったくすんだ色に抑えられ、ドアは黒色です。
地下から4階に吹き抜けになっている場所では螺旋階段が美しい曲線を描いています。 廊下の壁には建物の外観、
中庭の床のレリーフなど建物内に繰り返し使われている警察のシンボルである星型のランプが掛かっています。
2階、3階の廊下から中庭を見下ろすことができます。 建物の中には刑務所もあり、裏玄関にはこの地区を管理する警察著が設置されています。
見学の最後に案内されたのは、警視庁長官部屋と会議室でした。 長官室の入口には権威を象徴する大きな貝のレリーフが飾られ、床には卍模様のモザイクが使われています。 長官は代々自分の部屋を好みのインテリアにすることができます。 今の長官は女性です。 こじんまりした部屋の色調は黒でまとめられていました。 壁一面に男性の歴代長官の肖像画が飾られた部屋に、超モダンなフィッリプ・スタルクの黒の皮製のイス、ルチールのテーブルや机がおかれ、 天井からインゴ・マウナー作の電球に羽がついたランプが下がっていました。 当然デンマークの高級家具が置かれていると思っていましたので、テレビで見る女性長官はこんな趣味なのかと、ちょっと意外でした。
2時間ほど丁寧な案内をしてくれたのは、広報部の警察官でした。 40人ほどのグループの最後には見学者を装った私服の警察官が何気なくついてきて、我々の動向を見張っていました。
個人的には、真新しい建物より、市街地に目立たなく建っている1800年末から戦前までに建てられた建物に興味があります。
建物は作られた時代やその様式を如実に表しているものが多いです。 この機会に、非公開の警視庁の建物を見学できて良かったです。
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写真は全て小野寺綾子氏撮影
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