フランスの建築家、ジャン・ヌベールが設計した新しいデンマークラジオ国営放送局のコンサートホール(DRデンマークラジオコンサートホール)が、
1月17日にオープンしました。
コンサートホールは、現在も開発が続くウアステッド地域にある地下鉄DR Byen駅にあります。 コンサートホールのすぐ近くにはこの欄に書いたIT大学、コペンハーゲン大学、円形学生寮などが点在しています。
最近、コペンハーゲンでノーマン・フォスターが設計したコペンハーゲン動物園のゾウ舎やダニエル・リベスキンドが内装を担当したユダヤ博物館、ザラ・ザハッドの美術館など、外国人建築家の建物が少しずつ建てられるようになりました。
フランス人の建築家がデンマークに設計したのはほぼ100年ぶりだそうです。
2001年末のコンサーホールの設計コンペには、ジャン・ヌベールのほか、 ラファエル・ヴィニオリ、ホセ・ラファエル・モネオ、デンマークの設計事務所ではヘニング・ラーセン、3XN, シュミット・ハマー・ラーセンなどが参加しました。
コンサートホールは2003年秋に着工して2006年に完成する予定でしたが、計画が3年も遅れた上、工事費が当初の予算を超えて14億クローナ(約238億円)になりました。
移転して新しく建てた放送局の建築費と合わせると、コンサートホールはデンマーク放送局にとって予想以上に金と年月が掛かった建物になりました。
そのため、2年前にデンマーク放送局会長が責任をとって辞任し、テレビのスポーツ番組部門を縮小して、500人ほど人員整理をしなくてはなりませんでした。
すでに2007年に運河を挟んでヴィルヘルム・ラウリッセン設計事務所とデシング+ウェイトリング(アーネ・ヤコブセンの設計事務所を引き継いだ設計事務所)などが設計したデンマーク放送局の建物が作られています。
ガラス張りの渡り廊下で、テレビ・ラジオ番組制作部門が入った建物と経営部門が入っている建物とコンサートホールが結ばれています。
コンサートホールのすぐ脇を2両編成の地下鉄が走っています。
話題のコンサートホールは工事現場のように建物の側面が青い布に覆われているので、建物全体がどのようなのか見えません。 この青い布は部分的に昼間カーテンのように巻くことができますが、夜は建物を覆う布に幻想的に映像が映し出されスクリーンのような役目をします。 放送局ロビーにあるコンサートホールの模型を見ると、上部が丸いコンサートホールを鉄骨で枠組みし、そこに青い布を覆っています。
ジャン・ヌベールはデンマークの現代作家ピーター・ホーが書いたベストセラー小説「スミラの雪の感覚」を読み、 小説の舞台であるグリーンランドからインスピレーションを受けて青い色を選んだそうです。
正面玄関からすぐ入ったところは暗く、天井を見上げると銀色の星座がちりばめられています。 建物の内外の壁はコンクリ—トで、灰色の壁の表面にわざと皺がよったような仕上がりで、象の膚と呼ばれています。 コンクリートを特殊な液体でふいてつるつるに磨いているので、安藤忠雄の建物のコンクリ—トに似た滑らかさがあります。 壁にアクアビットのような強いお酒を飲む時に使う小さいグラスが、飾りとしてはめ込まれています。 灰色の壁に赤、黄色、青、オレンジ色の四角い大小のライトがアクセントとして飾られています。 トイレは白と薄い灰色です。 ドアや階段の手すりには白樺が使われています。 ジャン・ヌベールのコンサートホールの光と色彩は個性的で多弁です。コンサートホールに設置する予定だったカフェテリアなどは建築費沸騰のため、中止においこまれました。 そのかわり、エレベーターで3階に上がった大ホールの踊り場に、立ってワインやビールを飲む場所が設置されていますが、非常に混雑しています。
コンサートホール内には大小の4つのホールがあります。 一階にある3つの中規模のホールは昨年秋から使用されています。 小さい2つのホールの内、スタジオ3はジャズを中心に演奏するデンマークラジオビッグバンドの練習部屋で、室内が真っ黒です。 スタジオ4はコーラスなどの練習部屋で壁や天井が赤色です。 中ホールスタジオ2はデンマークラジオ軽音楽団が主に使用し、木の壁にはデンマーク軽音楽を代表するデンマーク人のジャズ歌手や作曲家など、38人の肖像画がプリントされています。
1800人の観客を収容する大ホール、スタジオ1はデンマークラジオ交響楽団の専用ホールで、演奏する舞台の周囲を観客が囲むヴィニヤート形式になっています。 コンサートホールは最初のコンペから、このヴィニヤート形式がテーマでした。 ホール内の曲線を描く壁には白樺の木がふんだんに使われ、椅子や壁の色は夕焼けのような深みのあるあかね色です。 この色はジャン・ヌベールがムンクの有名な「叫び」の絵からヒントを得たそうです。 ラウリッセンが設計した元ラジオハウスの椅子が、背もたれを少し高くしてほぼ同じデザインで使われていいます。
ホールにはオランダで作られたパイプオルガンがありますが、ホールに対してオルガンが大きすぎるなど問題があるそうです。
札幌の音楽好きの知人にこのコンサートホールの写真を見せましたら、札幌コンサートホール、通称キタラに似ているという感想でした。 実際コンサートホールの案内者もホール内が丸くてヴィニヤート形式の構造がキタラに似ていると説明していました。
ジャン・ヌベールと組んでコンペに勝ち、音響を担当しているのは、日本の永田音響設計の豊田泰久氏です。 ジャン・ヌベールは永田音響設計とパリにできる予定のコンサートホールを設計しています。 永田音響設計のサイトを見ると、永田音響設計はサントリーホールなど日本国内の主要なコンサートホールの音響のほか、フランク・ゲイリー設計のウオルト・ディズニ—のコンサートホール、ペテルスブルグにあるマリインスキーホールなどの音響を手掛けています。 2011年にヘルシンキに完成予定のコンサートホールの音響も担当しています。
1月17日の華やかなオープニングセレモニーの後、2月6日にガラコンサートがありましたので、ベートーベンの第九を聞きに行きました。 半年前に運よく手に入れた席はバルコニー1階で、ほぼ舞台の真正面でした。 音響対策で特別な繊維でできた椅子はゆったりして、座り心地が良かったです。 新聞に新しいコンサートは、期待にかなった本当に世界に誇れるような一流のコンサートホールなのだろうかという疑問視する記事が載っていました。 永田音響設計では工事の遅れから、まだ最終音響測定は終わっていないとのことです。
オペラやクラッシックのコンサートの観客層は、統計的に50歳以上でコペンハーゲンの北部にある高学歴、高収入の人が住む地域の人だそうです。 オペラハウスでは、30歳以下の入場料を50%割引にしたり、子供向けに創作したオペラを上演して、新しい観客層を狙った活動をしています。 ヴィルヘルム・ラウリッエンの代表作であるラジオハウスは音楽学院ホールと名称が変わり、ここでチボリ公園のコンサートホールで演奏していたシーランド交響楽団が演奏するようになりました。
DRデンマークラジオコンサートホールは、今年12万人の観客動員を予定しています。 潜在的にクラッシック音楽ファンは多いですが、料金が高いと遠慮している人や若い観客層の開拓をしないと、折角の2つ素晴らしいホールが大なしになってしまいます。
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写真は全て小野寺綾子氏撮影
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