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デンマーク ・ ヘルシンガーからの便り  22

「3XN設計のモダンな高校」

2010/04/20小野寺綾子 / ヘルシンガー

この冬は、これまでになく寒さが厳しく長い冬でした。 昨年12月中旬から降り積もった雪は根雪になり、ようや3月上旬から雪が解け始めました。 森では一輪草など早春の花が咲き始め春到来ですが、桜の開花は例年より2週間ほど遅れています。

デンマーク建築センター(DAC)で、2月13日から5月13日までデンマークを代表する建築事務所である3XN(スリーエクスエヌ、もしくはスリーガンゲエヌと呼ばれるwww.3xn.dk )の展覧会「Mind Your Behavior」が開かれています。

3XNはオーフスとコペンハーゲンに事務所を持ち、最近は国内外で大変評価の高い設計事務所です。
3XNは1986年にオーフスで始まった設計事務所で、創立者の3人の建築者の姓名が3人ともデンマークではごくありふれた名前であるニールセンあることから、名称が3XNになりました。 現在3人の内2人のニールセンが退き、Kim Herforth Nielsenが3XNの代表者として残っています。 この展覧会では最近完成した建物を中心に、現在建築中の建物やコンペなどで優勝した建物の写真や模型などが展示されています。

3XNは、1996年にベルリンにある北欧やデンマーク大使館が集まるビルの設計で脚光をあびました。 デンマーク建築センターのすぐ脇に立つ建築家協会の建物、チボリコンサートホールの新しい入口の建物、SAXO銀行(サクソバンク)などが知られています。
3XNの建物はチボリのコンサートホールの増築部分やSAXO銀行、フュン島に完成した銀行などで、建物のファサードを連続した白色のひし形の幾何学模様が装飾的に覆っています。 そのため外観が非常にリズミカルで、建物が大きく躍動したように見えるので、3XNの設計した建物と顕著に分かります。

現在進行中の大きなプロジェクトは、英国リバプール市の博物館(2011年完成予定)ユトランドのラナス市の美術館(2013年完成予定)、ベラセンター会議場近くに立つ部屋数800のツインホテル(2013年完成予定)、コペンハーゲンの空港近くにできる水族館(2013年完成予定)です。
この水族館は別名「青い地球」と呼ばれて、建物イメージは水がテーマです。 模型の建物を上から見るとヒトデの形ように5つのウイングから成り立っていて、ウイングの側面は大波を思わせる波紋が浮き上がっています。
DACから270ページの展覧会カタログが出版されています。

1月下旬に3XNの代表作の一つであるウアスタッド高校(Orstad Gymnasium, 略称OEG www.oerstadgym.dk )を訪れる機会がありました。
高校があるウアスタッドは地下鉄にそって開発が進む新興地域で、あたりにはたくさんの貸しビル、アパート群、大学寮、大規模なショッピングセンターがあります。 OEG高校はそんなビルの間にある建物の窓に青、オレンジ色のカラフルなひさしがついた5階立ての建物ですから、一見すると高校の建物とは思えません。

デンマークで2005年に高校改革があり、ウアスタッド高校は2007年に改革後コペンハーゲンで80年ぶりに開校した高校です。
改革では、従来高校1年生から勉強する科目が理科系、文化系に分かれていたコースを改めて、知識がかたよらないように、1年、2年生ではコースを分けず勉強し、3年生から専門科目を取得するようになりました。 OEG高校は教師120人、生徒1000人(36クラス)の大規模高校です。

OEG高校には、廊下や決まったクラスルームがなく、生徒は科目によって教室を移動します。 オープンスペースにもホワイトボード、椅子とテーブルがおかれているので教室の変わりになります。 最近新しく建てられる高校や国民学校(幼稚園クラスから9年生までの義務教育機関)で、広い敷地面積を取らないオープン式の学校が少しふえています。
ガラス張りの建物を入ると、たくさん黒い椅子、黒いテーブルがおかれた広いスペースになっています。 そこで登校した生徒が授業の前にくつろいでいます。 このスペースは昼休みにビュッフェ式の食堂になります。

5階まで突き抜ける木目がきれいな大きくうねった形の白色の螺旋階段があり、この建物を印象付けるこの階段は高校のロゴとして使われています。 広い階段から校内で何が起きているのか良く見渡すことができます。 建物はガラス張りですから校内が非常に明るく、階段が作り出す広い空間と共に開放感があります。

以前に地下鉄のエスカレーターの手すりが低く、深夜、酔った若者がふざけて手すりに乗って転落死した事故が相次いだ教訓から、階段の手すりは、生徒の安全のために本来設計された高さより10cmほど高く直されました。

1階は、オープンスペースのほか、事務室、図書館、半地下の体育館があり、2階、3階は教室、コンピュータールーム、4階は自然科学の教室になっています。
各階が階段にそって少しずれているので、1000人の生徒がいても、建物に残響がなく思いのほか静かです。 天井の照明は大小の円形型、各階には生徒が寝転んでくつろぐ円形のラウンジがあり、生徒のロッカーや視聴覚室も円形型をしているように、円形型のパターンが建物内部に繰り返されて使われています。

時代を反映して高校はIT関係に力をいれており、生徒は3年間で使うノートパソコンを学校から買います。 教師からの伝言、宿題レポートはすべて自分のパソコンを通して行われます。 もし、在学中に生徒のパソコンが故障した場合、修理代は学校側が払います。 近くのコペンハーゲン大学やIT大学とも学習提携しています。
1980年—90年代は躍進する日本経済を反映して日本語を教える高校がありましたが、今は中国語に代わってしまいました。 OEG高校でも外国語として中国語が選択できます。 学校のモダンさから人気のある高校です。

高校から外部を見るとあたりは新しいビルばかりで、教室の脇を地下鉄が2−3分おきに通過していきます。 校内を案内してくれた副校長は、建物の使い心地について、ガラス張りなので、夏は暑く、冬は暖房費が高いと言っていました。 本箱をイメージした外見のファサードに使われたカラフルな色のひさしは、外の気温が上昇すると自動的に閉まるようになっています。 隣にある貸しビルは不景気で空いているので、高校で授業のため部屋を借りる予定だと、副校長は言っていました。

写真は全て小野寺綾子氏撮影
全ての内容について無断転載、改変を禁じます。

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ウアスタッド高校の外見と正面玄関 
本棚をイメージした青、オレンジ色のひさしが建物のアクセントになっている。

■ ウアスタッド高校の外見と正面玄関
本棚をイメージした青、オレンジ色のひさしが建物のアクセントになっている。

■ ウアスタッド高校の外見と正面玄関
本棚をイメージした青、オレンジ色のひさしが建物のアクセントになっている。

階段から一階にあるオープンスペースを見る。 回転ドアがるところが、正面玄関。

■ 階段から一階にあるオープンスペースを見る。
回転ドアがるところが、正面玄関。

■ 階段から一階にあるオープンスペースを見る。
回転ドアがるところが、正面玄関。

一階の階段登り口 女生徒が17歳の誕生日を迎えた垂れ幕がかかっている。

■ 一階の階段登り口
女生徒が17歳の誕生日を迎えた垂れ幕がかかっている。

■ 一階の階段登り口
女生徒が17歳の誕生日を迎えた垂れ幕がかかっている。

視聴覚室の上にある生徒のラウンジ、ロッカールーム、天井。

■ 視聴覚室の上にある生徒のラウンジ、ロッカールーム、天井。

■ 視聴覚室の上にある生徒のラウンジ、ロッカールーム、天井。

上から見た階段と一階にあるオープンスペース

■ 上から見た階段と一階にあるオープンスペース

■ 上から見た階段と一階にあるオープンスペース

学校のロゴにもなっている階段と円形型の視聴覚室

■ 学校のロゴにもなっている階段と円形型の視聴覚室

■ 学校のロゴにもなっている階段と円形型の視聴覚室

教室での授業風景 教室はすべてガラス張りになている

■ 教室での授業風景
教室はすべてガラス張りになている

■ 教室での授業風景
教室はすべてガラス張りになている

専門教科室の教師たち 窓の向こうに見える建物は、不況で入居がないビル

■ 専門教科室の教師たち
窓の向こうに見える建物は、不況で入居がないビル

■ 専門教科室の教師たち
窓の向こうに見える建物は、不況で入居がないビル

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