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デンマーク ・ ヘルシンガーからの便り  49

「Bさんの引っ越し」

2017/9/23小野寺綾子 / ヘルシンガー


47号で書いた同じ通りの住むBさんの家が夏前にようやく売れ、8月31日に引っ越しました。 8月31日夕方にBさんから、9月1日に不動産屋へ家の鍵を渡す約束をしているので、ちょっとお茶でも飲みに来こないか、と声が掛りました。 この家で育った4人の子供達も、家に来るのが最後だというので家族を連れて集まっていました。 近所で呼ばれたのは、主人と私、25番に住む男性で、子供達の幼なじみの人です。 居間のテーブルにワインやケーキが置かれ、椅子がたりないので、台所の引き出しを持ってきて椅子の代わりに座っていました。 部屋はほとんど空になり、かたづけられていました。
 
部屋の白いカーテンは古くなったので、取り外されていました。 庭にほとんど木や草花がなく、長いこと手入れがされていません。 Bさんは、以前書いたヤコブさんとほぼ同じくらい、50年以上もこの家に住んでいたので、取手の金具がある台所の引き出し、居間の大きなガラス窓、手製の棚や部屋の作りにローマハウスが建てられた初期の面影がありました。

Bさんの子供から聞いた断片的な情報では、買い手はゲントフト市に住む年金者の夫婦だそうです。 ゲントフトはコペンハーゲン北にある高級住宅地です。 庭付きの一軒家の価格は、4−500万クローネ(約7—9千万円)くらいします。 Bさんの家は230万クローネ(約3600万円)でしたから、新しい所有者は、家を修理しても十分におつりがきます。

部屋のコルクの床は至る所ですり切れていているので、張り替えが必要です。 床暖房は大丈夫との事です。 窓ガラスは普通のガラスで、出来たと当時のままです。 特に居間の窓は、大きい薄いガラスが2枚入っているだけで、居間の熱が逃げます。 文化保護委員会は、建物の総合性を尊重する方針に変え、薄いガラスを断熱ガラスに交換することを認めていません。 効率よく住むには、リアルダニアがヤコブさんの家を修理したように、床をはいで土台に断熱材を入れて、断熱を強化するしかありません。

Bさんの息子の一人Eさんと庭から家を眺めて、買い手がどのくらいこの家の修理をするのかと話しました。 修理には膨大なお金が掛りますから、全面的に一度に修理するのか、それとも少しずつ時間を掛けてゆっくり作業を進めるのか、所有者の計画や経済的事情によります。
修理するには、ローマハウスが独自に作ったローマハウスを管理、修理するマニアルがあるので、それに沿ってしなければならなりません。 しかし、Eさんは、マニアルは家が建てられてから、かなり後につくられたのだから、そのマニアル自体が間違っていると、興味深いことを言い出しました。
たとえば、玄関のドアは、住民が茶色、焦げ茶色と強い色を塗っています。 自分が育った時は、ドアが黄色の薄い色だったそうです。 ドアのランプも柔らかい光で、人を暖かく迎える色だったと。 この家のドアが本来の色だと言うのです。 だんだんドアを濃い色に塗り始めたので、ランプもそれに対して明るさが強くなっていったそうです。 ヤコブさんの家の玄関ドアも木目が浮き出たドアでした。 60戸でオリジナルのドアの色が残っているは、1−2戸しかないかもしれません。
 
庭から見る居間と部屋の窓枠は木の木目がでて、手入れがされていない印象があります。 Eさんは、これもこのままで良いのだと言うのです。 窓枠の部分では、日の当たる部分は、太陽や雨風にさらされて、木目が現れて、ちょっと日本の古いお寺の様です。 窓枠の上の軒の部分は、黒めの防水の塗料が塗ってあります。 居間の大きなガラスがはまっている窓枠の庭に面した部分には、2枚のガラスの間に水滴がたまらないように、空気を通す小さい穴が数カ所あると教えてくれました。 恐らく新しい所有者は、マニアル通りに窓枠やドアなどを茶色に塗るでしょう。

建物の車庫にあたる部分は、改造された物置部屋として使われていました。 Bさんが住み始めた時、建築家と結婚していたので、夫が車庫を改造して仕事部屋にしていたそうです。 庭面には大きな薄汚れて、ひび割れたガラスがはめられていました。 暖房もない部屋で、床はレンガです。 ガラスはなにかをぶつけて割れたのではなく、太陽や雨の自然現象で割れてしまったのです。

Eさんは庭のレンガ壁を指して、子供のころ庭から共同緑地に出る出口は、隣の壁側にあったことや、なぜ両親が住宅地の端っこの家を買ったのかと理由を話ました。 ローマハウスの敷地には、池があります。 家が出来た当時、池の周りには柵がなく、子供が池でおぼれて亡くなった事故がありました。 それで両親は子供たちが池に行かないように、池から一番遠い家を買ったと言うのです。

Bさんの新しいアパートは、賃貸で部屋の大きさは50�uです。トイレ、台所と一部屋だけだと言っていました。 この家の半分の大きさですが、アパートからウアソン海峡が見えます。 緑に囲まれて環境も良いし、昔働いていた特養ホームに近いなじみのところです。

9月1日に新しい買い手の車が、Bさんの家の前にありました。 まだ、挨拶はしていませんが、時々家に来ているらしく、車が止まっています。 さっそく業者が入り、屋根の修理作業が始まりました。 瓦の下にある下張りを張り替える作業のため、瓦が取り除かれて、屋根の半分以上にビニールシートがかぶせられています。

写真は全て小野寺綾子氏撮影
全ての内容について無断転載、改変を禁じます。

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家の外に止められた子供達の自転車。

■ 家の外に止められた子供達の自転車。

■ 家の外に止められた子供達の自転車。

居間では、近所の人や子供達が集まって、お別れ会。3本足のヤコブセンの椅子は、長女がもらうことになった。

■ 居間では、近所の人や子供達が集まって、お別れ会。3本足のヤコブセンの椅子は、長女がもらうことになった。

■ 居間では、近所の人や子供達が集まって、お別れ会。3本足のヤコブセンの椅子は、長女がもらうことになった。

玄関より左側が、スライド式のガードローブ。右側と奥に部屋がある。天井裏に行くには、はしごを掛けて上がる。

■ 玄関より左側が、スライド式のガードローブ。右側と奥に部屋がある。天井裏に行くには、はしごを掛けて上がる。

■ 玄関より左側が、スライド式のガードローブ。右側と奥に部屋がある。天井裏に行くには、はしごを掛けて上がる。

カーテンが外された部屋とすり切れたコルクの床。

■ カーテンが外された部屋とすり切れたコルクの床。

■ カーテンが外された部屋とすり切れたコルクの床。

塗料が塗ってない、木目が現れた窓枠。日が当たる所は、特に色が薄い。

■ 塗料が塗ってない、木目が現れた窓枠。日が当たる所は、特に色が薄い。

■ 塗料が塗ってない、木目が現れた窓枠。日が当たる所は、特に色が薄い。

窓の部分。

■ 窓の部分。

■ 窓の部分。

正面玄関の塗料がぬられていない、木目が浮き上がったオリジナルのドア。残念ながら、古いドアは防犯に弱いので、新しいドア金具にするように奨励されている。

■ 正面玄関の塗料がぬられていない、木目が浮き上がったオリジナルのドア。残念ながら、古いドアは防犯に弱いので、新しいドア金具にするように奨励されている。

■ 正面玄関の塗料がぬられていない、木目が浮き上がったオリジナルのドア。残念ながら、古いドアは防犯に弱いので、新しいドア金具にするように奨励されている。

元仕事場で、物置にされていた部屋。古い一枚の大きなガラスが使われている。上部に手製の空気孔がある。

■ 元仕事場で、物置にされていた部屋。古い一枚の大きなガラスが使われている。上部に手製の空気孔がある。

■ 元仕事場で、物置にされていた部屋。古い一枚の大きなガラスが使われている。上部に手製の空気孔がある。

居間の2枚の大きなガラスがはいった窓。窓枠の真ん中の木枠に小さい空気孔がある。

■ 居間の2枚の大きなガラスがはいった窓。窓枠の真ん中の木枠に小さい空気孔がある。

■ 居間の2枚の大きなガラスがはいった窓。窓枠の真ん中の木枠に小さい空気孔がある。

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