■ -「目次」に戻ります - ■

デンマーク ・ ヘルシンガーからの便り  53

「藤森照信設計の茶室」

2018/8/10小野寺綾子 / ヘルシンガー


フィン・ユールの自邸や印象派の収集で有名なオードロップゴー美術館の庭園に、5月31日藤森照信氏が設計した茶室「Tree Tea House」が完成しました。 現在、美術館は本館の前庭の地下部分に増築工事をするため、2019年末まで美術館とフィン・ユールの自邸は閉鎖中ですが、建物の裏手にある庭園は無料開放しています。 広い庭園には、アメリカ、英国、デンマークなどの芸術家による彫刻が点在しており、藤森照信氏の茶室も庭に設置された作品の一つです。 茶室は、ザハ・ハデッド設計の曲線を描く別館の後ろにある、木立の中に立っています。

藤森照信氏は、国内外に一種独特な茶室を作っています。 なぜ、オードロップゴー美術館に茶室が実現したのか、学芸員に聞いたところ、女性学芸員はインスタグラムで山梨県山杜市清里芸術村にある茶室「徹」を見て大変気に入り、情報収集を始めたのだそうです。 これが茶室実現の第一歩でした。

茶室の工事は、5月にデンマークの建築事務所の協力で建てられました。 17,18日の2日間のワークショップでは、建築科の学生や一般人も参加して、天井と内壁に沢山の木片を付けたり、和紙のランプを作る作業などがありました。
5月31日午後に藤森氏の茶室とアメリカ人作家が竹を使って幾重にも編んだ塔のような彫刻のオープニングがありました。 この日は北欧らしい夏日で、入場無料の広告を出していたので、ピクニック気分で来た沢山の家族連れでにぎわいました。 私は東京国分寺市にある自邸「タンポポハウス」の外見、同市にある「チョコレートハウス」や画廊など数件藤森照信氏が設計した建物を見たことがあるだけで、茶室を見るのは初めてでした。

御存知のように藤森照信氏が設計する茶室は、伝統的な茶室と一線を画していることです。 藤森氏は自分の茶室設計に千利休が作った茶室から狭い空間、自由なデザイン、炉を作ることを取り入れました。 逆にあえて日本的な畳や障子、軸や花を飾る床の間を拒否しています。 窓が少なく壁に覆われた閉鎖的な空間を、逆に壁を取り除き、広く明るい開放的な空間をもつ建物にしていることです。 茶室の外と内を隔てる躙(にじり)り口の部分を、地上から茶室に上る階段にしています。 このように日本の伝統的な茶室に沿っていない新しい空間の茶室なら、世界各国どこでもその土地の材料を利用して作ることが可能です。 藤森氏は各流派の細かいお点前には興味がなく、お茶は亭主が点て、客に直接出すことを大事にしています。

茶室は4本の長い柱がある地上3mの高さの建物で、外見は縞模様の焼杉で作られています。 靴を脱いで90度の急な階段を6段上ると、茶室に入ります。 中は2畳半くらいの広さです。 木の表面を白く塗り加工した大きなテーブルと壁に沿ってベンチがあり、四方を眺められる窓が大きく、解放感があります。 階段の木は白木ですが、ベンチや床の木材は砥の粉仕上げです。 テーブルの上に釜を置く炉と花の鉢をいれる場所が二か所丸く切ってあます。 サマーハウスの台所でお茶を点てている感じです。 建物の定員は大人7人。 子供なら2人で8人入れます。 客は羽を広げた窓や長い脚の茶室を鳥小屋みたいだといいます。 4本脚なので安定感はありますが、中で人が動くと少し揺れます。 オープニングの時は、藤森照信夫人もわざわざ日本からいらして、お茶を点ててくれました。
美術館は夏時期に本館が閉鎖されている間、客呼びのイベントとして藤森氏の茶室が見学できる毎水曜日に、希望者に茶室でお茶を飲む体験を企画しました。 私が所属している表千家のお茶グループにその協力依頼がきました。 私たちはコペンハーゲンの北にある表千家の残月亭や不審庵の写しがある茶室を借りて稽古を続けています。 お茶会は、水曜日の午後3時半から5時までの3席で、各席の人数は6名と小さい規模です。 藤森照信氏の茶室を使う体験も貴重で面白そうなので、ボランティア活動で始めました。

お茶会は先に亭主がベンチに座って、下から上がってくる客を待ちます。 急な階段を上ってくる心配そうな客の表情が、茶室に上がると明るく安心した表情に変わります。 客がテーブルを囲むようにしつらえてあるベンチに着席したら、お菓子を食べ、窓から見える風景を楽しんでもらいます。
お点前は、棗を清め、御茶碗を温めたりしてお茶を点て、客にお茶を出します。 客はお茶を飲みながら、亭主や同席の客と抹茶の味やお茶室のことや日本などについて歓談していると、予定の30分がすぐ経ってしまいます。 最近デンマーク人に緑茶や茶道の関心が広まっていますが、ここで初めて抹茶を味わう客が多いです。 茶碗や水差しなど最小限の道具を茶室に運び、使った建水にある水は、窓から外に捨てます。 アシスタント役の半東(はんとう)は、階段の下で待機して、お客の誘導やお湯が入っている魔法瓶、茶碗の入った籠を亭主に運んだり、後片付けをしたりと大忙しです。 美術館のサイトに茶室で茶道(tea ceremony)があると書いてあります。 どちらかというとセレモニーではなく、tea drinkingです。 中途半端で、簡略した手前を茶道と認識してもらうとちょっと困ります。 8月いっぱい2人一組になり毎週一回のお茶会をこなしています。

デンマークも5月から毎日北欧の夏とは思えない高温の異常な天気が続いています。 6月24日の夏至祭に野原で日本の左義長のように焚火をすることは、異常乾燥注意報のため禁止になりました。 藤森氏の茶室では、最初炉に使う炭をバーベキュー用の炭を利用していました。 茶室の脇で美術館の職員に炭を起こしてもらって、茶室の炉に運んでいましたが、乾燥注意報がでているので、炭も安全上使用中止になりました。 代りに魔法瓶にいれたお湯で代行しています。 10月中旬以降、冬期間は茶室の公開はない予定です。 来年春に再度公開があると思います。

写真は全て小野寺綾子氏撮影
全ての内容について無断転載、改変を禁じます。

enlargeenlarge  写真はクリックすると拡大します。

美術館の木陰にある茶室。

■ 美術館の木陰にある茶室。

■ 美術館の木陰にある茶室。

5月31日オープニングの日。 白いスーツ姿で帽子をかぶっている後ろ姿の藤森照信氏。

■ 5月31日オープニングの日。 白いスーツ姿で帽子をかぶっている後ろ姿の藤森照信氏。

■ 5月31日オープニングの日。 白いスーツ姿で帽子をかぶっている後ろ姿の藤森照信氏。

茶室に上る急な階段。

■ 茶室に上る急な階段。

■ 茶室に上る急な階段。

縞模様の茶室の外観。

■ 縞模様の茶室の外観。

■ 縞模様の茶室の外観。

テーブルの上の炉にある鉄瓶と茶道具。ベンチに客が座わっている。

■ テーブルの上の炉にある鉄瓶と茶道具。ベンチに客が座わっている。

■ テーブルの上の炉にある鉄瓶と茶道具。ベンチに客が座わっている。

テーブルの下の炉の部分は、ステンレスが取り付けられ、断熱のための石膏で覆われている。

■ テーブルの下の炉の部分は、ステンレスが取り付けられ、断熱のための石膏で覆われている。

■ テーブルの下の炉の部分は、ステンレスが取り付けられ、断熱のための石膏で覆われている。

天井、壁は木の破片がたくさんちりばめてられている。

■ 天井、壁は木の破片がたくさんちりばめてられている。

■ 天井、壁は木の破片がたくさんちりばめてられている。

4本の柱。 <br>
本、オペラハウスの模型、ウッソンのサイン入りのオペラハウスのワインなど細々したのが、ガラスケースに展示されている。

■ 4本の柱。

■ 4本の柱。

ベンチ、テーブルと広い窓。

■ ベンチ、テーブルと広い窓。

■ ベンチ、テーブルと広い窓。

客を待つ筆者(小野寺綾子さん)。

■ 客を待つ筆者(小野寺綾子さん)。

■ 客を待つ筆者(小野寺綾子さん)。

階段から顔を出して覗く客。後ろに灰色の別館が見える。

■ 階段から顔を出して覗く客。後ろに灰色の別館が見える。

■ 階段から顔を出して覗く客。後ろに灰色の別館が見える。

PAGE TOP

Copyright © 2006-2024  The Scandinavian Architecture and Design Institute of Japan  All rights reserved.