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デンマーク ・ ヘルシンガーからの便り  54

「BLOXでのウッソンの展覧会」

2019/1/3小野寺綾子 / ヘルシンガー


BLOXでのウッソンの展覧会 2018年はヨーン・ウッソン生誕100周年でした。春からオルボーのウッソンセンターで開催された記念展覧会が、11月にコペンハーゲンに巡回してきました。 展覧会の会場は、2018年5月に完成した新しいデンマーク建築センターが入居するBLOX(ブロックス)と呼ばれる緑色のガラス張りの新しい建物です。
ウッソン展は、残念ながら期待していたより小規模の展覧会で、少し失望しました。2004 年にルイジアナ美術館で開催されたウッソン展のほうが、各段に充実した内容でした。 3つに仕切られた展示会場は、彼の代表的な建物であるヘルベックにある自邸(1952年)、ローマハウス(1956年)、シドニーのオペラハウスス(1973年)、バウスベア教会(1968-76)、マジョリカ島にある自邸Can Lis(1971-74年)未完に終わったアスガー・ヨーン美術館(1964年)とラングリニアの塔(1963年)などに焦点が絞られ、それらの設計図、写真、模型が展示されました。 ウッソン自身が取ったスライドや旅行記、構想スケッチもありました。

展示で一番興味深かったのは、ウッソン自身がモロッコ、メキシコ、中国を訪れた時に撮影したパネル写真や8ミリ映像です。 中国の塔、屈託ない子供の笑顔、人々が生活する姿、異国の町などどんなところにウッソンが興味を魅かれたか感じられます。 モロッコの土着の家の風景の写真から、ローマハウスの外観のインスピレーションがきたという定説を確認できます。 中国の雲崗石窟や洞窟などから、後に洞窟のイメージを基にして建設が実現しなかった抽象画家アスガー・ヨーンの個人美術館がありました。 ウッソンは1964年に地下に深く洞窟のような美術館を設計しましたが、技術的な困難さから断念しています。 白いカーテンにウッソンが撮影した映像が映るのですが、カーテンの皺がのばされずにいるので、画像が歪んで見づらいです。

ウッソンと一緒にイランなどに旅行に行き、仕事をした建築家は、ルイジアナ美術館が製作したウッソンに関するインタビュービデオの中で興味深いことを言っています。 ウッソンは旅行中にこれから設計する建築プロジェクトの話はせず、イスラム寺院や訪れた町のバザールや建物や中に差し込む光のコンストラクト、色彩についてとても関心と興味を持っていたそうです。 あとで設計されたプロジェクトには、その時ウッソンが感動して語った体験、見たことがちゃんと示されていたと。 ヨットに乗っていても建築の話はせず、空の雲の動きについて話していました。 ウッソンの性格は内向的でオープン。 そしてテヘランのプロジェクトからバウスベア教会の設計まで一つの考えを段々発展させていく長い思考的プロセスがあると言っていました。

同時にセンター上の階では、建築エンジニアリング会社のアラップ社を創立した構造技術者オヴェ・アラップ(Ove Arup)の業績についての展示が開催中でした。 オヴェ・アルップ(1895-1988)はデンマーク人で、1938年にロンドンに渡り構造技術の事務所を創立しています。 アラップはウッソンのオペラハウスの設計にも初めてコンピュタを導入して協力しています。 ウッソンとアラップはウッソンがシドニーのオペラハウスの設計を撤退した後、二人は会うことがなかったということです。

デンマーク建築センター(以下DACと略)は、昨年4月まで運河に面したクリスチャンハウンの外務省脇にあった古い倉庫の建物の中にありました。 国の保存指定を受けた建物は歴史を感じさせる建物でした。 しかし、内部は天井が低く、木の柱や梁が多くデジタル化した大規模な展覧会が開けませんでした。

BLOXがある場所は、国会議事堂のクリスチャンスボー宮やブラックダイアモンドとよばれる国会図書館の並びにある一等地です。 この土地は、昔国会のある場所がクリスチャンスボー王宮だったころ、王室のビール製造所があったので文字通りビール製造所(Bryggehus)という所です。 長い間更地で駐車場になっていました。 No.50で紹介したヘニング・ラーセンがこの場所にオペラハウスを設計しましたが、土地が狭く実現しませんでした。 土地は交通量が多い幹線道路を挟む二つの場所なので、設計がむずかしいです。

2005年にリアルダニア(Realdania)は旧市内に唯一残されたこの飛び地を購入しました。 Realdaninaの構想は大きく、建物の中にDAC、カフェ、貸しオフィス、アパート、フィットネスクラブ、外に子供の遊び場を併設する多目的な質の高い建築物を建てることでした。 DACは世界にデンマーク建築を紹介する中心地にするはずでした。 2006年3月に設計競技は設計事務所が設計図やモデルを提出する方法ではなく、この土地にどのよう建物を設計するのかという設計者の意見を聞くインタビュー方式でおこなわれました。 リアルダニアが指名招待した建築家は、レンゾー・ピアノ、OMA、ヘルツォーク&ド・ムローンの3組。 さらにデンマークの建築家に意見インタビューの参加のアナウンスがあり、ベラスカイホテルや水族館などを設計した3XN, 学生寮や新国立演劇場を設計したルンゴー&トランベアが参加しました。 この5つに絞られた設計事務所で、OMAが一番リアルダニアの希望を満足させる内容でした。

5月12日の開館前に新聞にはBLOXの批評が掲載され、ある新聞は5つ星の内たった2つしか採点しない辛辣な批評がでました。 失敗作。 ごまかしの仕事で挑発的。 デンマーク的ではない。 周りの歴史的な建物とそぐわず、バランスに欠ける。70年代のような建物とさんざんな評でした。 私は4月の見学会に行って、悪い印象がなかったので、 新聞の厳しい評に驚きました。 新聞の批評にたいして、3XNの建築家を含む第一線で活躍する5人のデンマーク人建築家は、コペンハーゲンが国際都市にふさわしいBLOXのような建物ができたこと喜ばなければならない。ヤコブセンのSASビルも建築当初批判をうけたことなどと、批判記事に応酬した論表をのせました。

BLOXは建物の大きさは27.000�uです。 2013年から2017年末まで4年間かけて一日に車が2万台通過する幹線を止めずに、建設されました。 近くを通る度に、建物はどこまで建設が進んでいるのか遠くから眺めることができました。 350台収容するパーキングを作るため地下を16メートルまで掘りました。 建物の外見は鉄の窓枠と薄い緑色のガラスです。 5階建ての各層が少しずれながら重なっている外見は、BIGが最近レゴランドのある町に設計したレゴハウスと呼ばれるレゴブロックを重ねた建物に似ています。

建物の中は、車の騒音と振動が全くなく静かです。 内部の音響が良く、靴の音などゴムを貼った床が吸収して歩きやすいです。 緑のガラスに周りの建物、運河が映り、建物からクリスチャンハウンの運河やコペンハーゲンの街並みが見えます。 5階にある22戸の賃貸アパートの大きさは、100�uから200�u。 値段は月々日本円で40万から50万円です。 このテラスから見えるパノラマも素晴らしいです。

生憎DACの企画展は、まだ面白いと思える展示がありません。 売店に、こぎれいなデザイングッツが並べられていていますが、書籍は少ないです。 古いDACでは天井まで届く本棚に書籍がたくさんあり壮観でした。 そんな雰囲気が懐かしいです。 子供のための教育室は建物の隅や地下でなく、良い環境で建物を学習体験してほしいので、ガラス張りの部屋から橋や街並みが見える眺めが良い一室が与えられています。 BLOXの前から運河を挟んで歩行者と自転車用の橋が建物の完成とほぼ同時にできるはずでしたが、組み立て工事中に橋脚が壊れてしまったため延期になり、今年の春に完成予定です。 この歩道橋が完成すると、人の流れが変わり、BLOX前を行き来する人がさらに増えるでしょう。

写真は全て小野寺綾子氏撮影
全ての内容について無断転載、改変を禁じます。

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■ 展覧会のタイトルはUtuzon Horisont. 後ろのシルエットは、道路を歩く人の姿。

■ 展覧会のタイトルはUtuzon Horisont. 後ろのシルエットは、道路を歩く人の姿。

■ 壁には白黒のウッソン自身が取った写真のパネルが飾られている。左側にモロッコの家のの写真がある。

■ 壁には白黒のウッソン自身が取った写真のパネルが飾られている。左側にモロッコの家のの写真がある。

■ ローマハウスやフレデンススボーの建物の資料。

■ ローマハウスやフレデンススボーの建物の資料。

■ ローマハウスの模型。

■ ローマハウスの模型。

■ 映像によるヘルベックにある自邸とマジョリカ島の自邸の比較。

■ 映像によるヘルベックにある自邸とマジョリカ島の自邸の比較。

■ 未完に終わったラングリニアの塔の模型。

■ 未完に終わったラングリニアの塔の模型。

■ 構想スケッチ。

■ 構想スケッチ。

■ 運河にあるBLOXとその後方にあるブラックダイアモンドと呼ばれる図書館。

■ 運河にあるBLOXとその後方にあるブラックダイアモンドと呼ばれる図書館。

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本、オペラハウスの模型、ウッソンのサイン入りのオペラハウスのワインなど細々したのが、ガラスケースに展示されている。

■ 広場から見たBLOX。カフェや赤いDACのロゴが見える。

■ 広場から見たBLOX。カフェや赤いDACのロゴが見える。

■ 建物は交通量の多い道をまたいで建っている。

■ 建物は交通量の多い道をまたいで建っている。

■ 外のガラスに映る周りの風景。

■ 外のガラスに映る周りの風景。

■ 5階のアパートのテラスから見た運河の風景。クリスチャンハウンの教会やへニング・ラーセン設計の銀行の建物がどが見える。

■ 5階のアパートのテラスから見た運河の風景。クリスチャンハウンの教会やへニング・ラーセン設計の銀行の建物がどが見える。

■ 5階の22戸のアパート部分。

■ 5階の22戸のアパート部分。

■ 建物の外には、運河に沿って歩道がニューハウンまで長く続く散歩道がある。

■ 建物の外には、運河に沿って歩道がニューハウンまで長く続く散歩道がある。

■ DACへはエスカレーターで地下に行き、入場する。

■ DACへはエスカレーターで地下に行き、入場する。

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